重力マイクロレンズによる地球質量の5.5倍の
低温の惑星の発見

名古屋大学・太陽地球環境研究所の村木綏教授を中心とするMOA実験グループは、OGLEグループ、PLANETグループ等、各国観測チームとの共同観測で、重力マイクロレンズ現象による星の増光現象を観測した結果、地球の5倍程度の質量を持つ太陽系外惑星を発見しました。これはこれまで発見された太陽系外惑星の中で最も軽い惑星で、地球に似た岩と氷でできた惑星と考えられます。この研究成果は、1月26日発行の英国科学雑誌Natureに掲載されます。MOA実験グループは、一昨年暮れニュージーランドに新望遠鏡を建設し観測を開始しておりましたが、その初めての成果でもあります。



この広い宇宙に地球のような惑星は他にもあるだろうか?我々人類は宇宙でひとりぼっちなのだろうか?この問いは我々にとって根源的な問いかけです。近年観測手段の発達によって、我々の太陽系以外にも惑星を持った恒星が存在していることがわかってきました。我々の太陽系以外の惑星を太陽系外惑星と呼びます。これまでの太陽系外惑星の探索は、恒星の周りを惑星が回る影響で、恒星自身が「ふらつく」ところを捉える方法(ドップラー法)が主でした。この方法は、重力が主星に影響を与えられるくらいに重く、また恒星の近くを回っている惑星に感度があります。これまで150個以上の太陽系外惑星が見つかっていますが、ほとんどが木星程度の重いガス惑星ばかりでした。


重力マイクロレンズによる光度変化。右側の小さなコブが惑星の存在を示す。

一方、我々MOA実験を含む国際共同観測ネットワークは、木星よりはるかに軽い地球型惑星の発見を目指し、重力マイクロレンズ現象を利用した太陽系外惑星の探索に取り組んできました。この現象はアインシュタインの一般相対性理論が予言する「光が重力によって曲がる」という性質のために起こります。ある星の前を偶然他の暗い星が横切ると、その星の重力場のために背景の星が発した光が曲げられてちょうどレンズのように集光され、突然明るくなったように見えます。このような現象を重力マイクロレンズ現象と呼びます。この増光現象が起こる確率は大変低く、100万個の星を毎晩観測し続けてやっと1回観測できる程度です。我々MOA実験グループは96年からニュージーランドのマウントジョン天文台の60cm望遠鏡に手製のCCDカメラを取り付け、現地研究者と共同で毎晩このような連続観測を続けて来ました。世界各地にはこのような観測チームが、OGLEグループ、PLANETグループ等いくつかあり、国際共同観測ネットワークを組んで増光情報と観測データのやり取りをしながら、重力マイクロレンズによる増光現象を見逃さないように毎晩夜空を見張っています。この甲斐あって2003年に、MOAグループとOGLEグループの共同観測により、重力マイクロレンズ現象を利用した太陽系外惑星の発見に初めて成功しました。重力マイクロレンズ天体が惑星を持った恒星であった場合、恒星の強いレンズに、惑星による弱いレンズが重なり合った「二重レンズ」が生じ、増光の時間変化は複雑な曲線を描きます。この曲線から惑星の質量や公転軌道を、「確率的」にではあるものの推測することができます。この最初の例では、発見された惑星は木星の約1.5倍の質量を持っていたと考えられています。このような惑星による重力レンズを伴った「二重レンズ」を見つける確率は、単体の重力レンズを見つける確率のさらに10分の1から100分の1と考えられており、これまでこの方法で2個の太陽系外惑星を見つけています。観測は大変ですが、地球程度の軽い惑星にも感度がある現在唯一の方法です。

我々MOAグループは、文科省科学研究費特別推進研究「マイクロレンズ効果を利用した新天体の研究」を受けて、一昨年暮れに口径1.8mの我々専用の望遠鏡をマウントジョン天文台に建設し、さらに大規模な観測を開始しました。この望遠鏡は重力マイクロレンズ専用望遠鏡としては世界最大のものです。今回の発見につながった重力マイクロレンズによる増光現象は、我々の観測開始まもない2005年7月初旬に始まりました。7月11日にまずOGLEグループが銀河中心方向のある星の増光に気づき他の観測グループに連絡が回り、PLANET他のグループが追尾観測に加わりました。7月31日に増光はピークに達し、元の明るさの約3倍になりました。その後、光度は減少に転じましたが、8月10日からの数日間、再びわずかな増光を見せたのです。このわずかな2回目の増光こそが、惑星の重力による重力マイクロレンズが起こした信号だったのです。我々MOAグループも昨年4月より同じ星域の定常的な観測に入っており、この2回目の増光を逃さず捕らえることができました。

井田・Linにより理論的に計算された惑星の分布(左図)および実際に発見された惑星(左図)。横軸は、主星からの距離(太陽地球間の距離を1とする)。縦軸は、惑星の質量(地球を1とする)。左図の赤い点は、木星の様なガス惑星を現し、青い点は海王星の様な氷惑星、緑は地球の様な岩石惑星を表す。右図の赤い点は、視線速度法で発見された惑星、薄い青で示した点はマイクロレンズ法で発見された惑星。今回の発見は、一番下の点。グレーの四角は、生命の存在可能な領域を示す。

各観測チームが得た光度の変化データはひとつに集められ、どのような恒星と惑星の組み合わせが引き起こした現象だったのか検討が重ねられました。その結果、この重力マイクロレンズ現象を起こした天体は、太陽の約0.2倍の重さを持つ恒星の周りを地球の約5倍の重さ持った惑星が回っている「太陽系」、と判明したのです。これはこれまで発見された中で最も軽い質量を持つ太陽系外惑星の発見です。恒星と惑星の距離は太陽―地球間距離の約3倍、公転周期は約11年で、惑星の表面温度は約マイナス220度Cと見積もられました。

地球の5倍程度の惑星といえば海王星よりも小さい惑星で、ガス惑星ではなく地球のように岩石か氷でできている可能性があります。つまり我々は初めて地球に「似た」ところのある惑星を発見したことになります。近い将来、我々の観測により地球サイズの惑星が発見され、そこに我々と同じ生命が存在する可能性に思いを馳せる日がやってくるかもしれません。

観測に成功したMOAグループの1.8m専用望遠鏡。文部科学省・科学研究費補助金・特別推進研究により、ニュージーランド・マウントジョン天文台(テカポ)に設置されている。写真は、2004年12月1日の完成記念式典の時のもの。



関連情報
記者会見の風景(1月24日、名古屋大学)


太陽地球環境研究所

名古屋大学