名古屋大学太陽地球環境研究所

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10世紀における宇宙線イベントの発見

【背景】

 自然界の放射性炭素(炭素14)は、地球外から飛来する銀河宇宙線が地球大気と反応して中性子を生成することによって作られます。大気中の炭素は光合成によって樹木に取り込まれるため、古い樹木の年輪にはその年代の炭素が固定されています。炭素14は半減期5,730年の放射性同位体であり、年輪に取り込まれるまでに炭素循環によって地球上の大気中で一様に混合します。年代が既知の年輪中の炭素14濃度を測定することによって、その年代の宇宙線量を知ることができます。また、これらのデータは炭素14年代測定の基準になります。これまでに過去12,000年の10年ごとの炭素14濃度が測られており、世界共通の年代測定の較正曲線(IntCal)として用いられています。

  IntCalデータによれば、炭素14濃度が100年程度のスケールで増加している期間が何度もあります。これらの期間では、宇宙線量が大きかったことを意味しています。そのおもな理由は、太陽活動が弱くなって宇宙線が地球に到達しやすくなったためで、17世紀後半のマウンダー極小期がその代表です。また1年ごとの高精度の炭素14データからは、太陽活動の11年周期変動による宇宙線量の変化を見ることもできます。このように炭素14濃度から過去の宇宙線量やこれを制御している太陽活動を知ることができます。

上のこととは別に、地球へ到来する宇宙線自体が急増するような、宇宙の高エネルギー現象(たとえばガンマ線を放出する超新星爆発やガンマ線バースト、あるいは陽子を放出する大規模な太陽フレアなど)が過去に起きていた場合、その痕跡が年輪中の炭素14濃度の急激な増加として、記録されている可能性が考えられてきました。しかし、記録に残っているそういったイベント(歴史記録に残る中で最も明るかったといわれている西暦1006年に発生した超新星爆発SN1006や、観測史上最大の太陽フレアといわれている西暦1859年に発生したカリントンフレアなど)は、いずれも年輪中の炭素14濃度の大きな変動として記録されていません。これまでに見つかった炭素14濃度の急激な増加は、西暦775年(Miyake et al. 2012)のものただ一つでした。

 

【本研究の内容】

  西暦775年の炭素14イベントの論文が発表された後、その原因について今までに様々な議論がなされており、太陽フレアによる大規模SPE (Solar Proton Event)とショートガンマ線バーストが候補として挙がっています(Melott & Thomas 2013, Usoskin et al. 2013, Hambaryan & Neuhäuser 2013)。しかし、炭素14イベントの発生頻度がわかっていなかったため、原因についてより詳しい議論ができませんでした。我々は、他にも西暦775年イベントのような炭素14イベントがあるかを調べるために、さらなる年代(西暦822-1020年)における炭素14濃度を、名古屋大学年代測定総合研究センターの加速器質量分析計を用いて測定しました。測定には、西暦775年イベントを検出した樹木と同じ、樹齢約1900年の屋久杉の単年輪を用いました。

その結果、西暦993年から994年の1年間で0.9 % の炭素14濃度の増加とそれに続く減衰を発見しました。これは西暦993-994年にも、地球へ飛来した宇宙線が急激に増加して大気中に炭素14を生成し、その後炭素循環によって減衰していったことを意味しています。西暦994年イベントの炭素14濃度変動は、西暦775年イベントと非常によく似た形をしていることから、両者の炭素14イベントを引き起こした原因の種類は同じであると考えられます。また、南極のアイスコアから得られた、炭素14と同じ宇宙線生成核種であるベリリウム10の10年値でも西暦775年、994年付近に急激な増加が見られ(Horiuchi et al. 2007)、炭素14、ベリリウム10両者の増加量の比が同程度であることからも、2つの炭素14イベントの原因が同じであることを示唆しています。

西暦994年の2例目の炭素14イベントの発見により、炭素14イベントの発生頻度は、観測でわかっているショートガンマ線バーストの頻度よりもはるかに大きいことが明らかになりました。また、2つの炭素14イベントは太陽活動が比較的活発な時期に起きているため、炭素14イベントの原因として大規模SPEがもっともらしいと考えられます。仮に原因がSPEだった場合、西暦775年と994年のイベントの規模はそれぞれ、観測で分かっている中で最大級のSPE1956 の約50倍と30倍に相当すると考えられます(Usoskin et al. 2012)。現代において、この規模のSPEが発生した場合、社会に与える影響は非常に大きいと予想されます。

  西暦775年のイベントについては、IntCalの10年値においてもその増加が確認できますが、西暦994年のイベントはその増加量があまり大きくないことから、IntCalにはその変化が現れていません。このことから、炭素14イベントは1年分解能の測定によって初めて検出可能と言えます。過去にさかのぼってみると1年分解能で測定されていない年代がほとんどであるため、本研究の2つの炭素14イベントの発見により、他にもこのようなイベントが多く隠されている可能性が示されました。今後、どのような時期に炭素14イベントが発生しているかを詳細に調べることで、将来の大規模フレアの予測につなげることが期待されます。


※この研究成果は、英国科学雑誌Nature Communications (2013年4月23日電子版)に掲載されています。

Another rapid event in the carbon-14 content of tree rings

F. Miyake, K. Masuda and T. Nakamura, Nature Communications, 23-April, 2013.

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