名古屋大学太陽地球環境研究所

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太陽フレアの発生原因となる磁場構造を解明

名古屋大学太陽地球環境研究所
独立行政法人海洋研究開発機構システム地球ラボ
東京大学大学院理学系研究科
京都大学宇宙総合学研究ユニット 

【発表概要】太陽表面で発生する巨大な太陽フレアは、地球規模のインフラと人工衛星及び宇宙飛行士に大きな障害を与える可能性のある太陽系最大の爆発現象です。しかし、その発生条件が未解明であった為、いつ、どこで、どれ程大きなフレアが発生するかを正確に予測することはこれまで困難でした。名古屋大学太陽地球環境研究所の草野完也(くさのかんや)教授(太陽地球環境物理学)を中心とする研究チームは、このほど「地球シミュレータ」による詳細な計算機シミュレーションと太陽観測衛星「ひので」による観測データの精密解析を通して、太陽表面に2種類の特殊な磁場構造が現れるときに太陽フレアが発生することを、そのメカニズムと共に初めて明らかにしました。この研究は巨大フレアの発生条件の解明へ繋がると共に、フレア発生予測の実現に大きな貢献をするものとして注目されています。本研究の成果は米国の天体物理学専門誌「アストロフィジカル・ジャーナル」(2012年11月20日号)に掲載される予定です。
 

【背景】太陽フレアは太陽黒点の近傍で発生する巨大な爆発現象であり、その影響は地球上の様々なインフラや宇宙飛行士・航空機乗員乗客の健康被害にも及ぶことが指摘されています。実際、1989年には巨大なフレアが引き起こした磁気嵐によって、カナダ・ケベック州で大規模な停電が発生し、600万人が被害を受けました。また、1859年には太陽フレアに伴うさらに大きな磁気嵐が起きたことが記録に残されており、もし現代において同規模の現象が起きた場合、その被害総額は2兆ドルを超えると試算されています(文献1)。
 一方、太陽フレアは黒点周辺に蓄積された磁場のエネルギーの一部が太陽コロナプラズマのエネルギーとして突発的に解放される現象であると考えられていますが、その発生機構は未だに明確に解明されていません。そのため、いつ、どこで、どれ程大きなフレアが発生するかを正確に予測することはこれまで困難でした。
文献1:Severe Space Weather Events—Understanding Societal and Economic Impacts, A Workshop Report, 2009, National Research Council of the National Academies, The National Academies Press, Washington, D.C.

【研究の内容】名古屋大学太陽地球環境研究所の草野完也(くさのかんや)教授(太陽地球環境物理学)をリーダーとする研究チームは、太陽フレアが太陽表面における「大規模な磁場の捻じれ」と「小規模な磁場の変化」の相互作用を通して発生するという仮説に基づき(図1)、太陽表面磁場とフレア発生の関係をこれまでに無い詳細な計算機シミュレーションによって調べました。地球シミュレータを用いて100通り以上の異なる磁場構造に関してそれぞれフレア発生の有無を調べる数値実験(電磁流体力学シミュレーション)を行った結果(図2)、捻じれた磁場中に「反極性(OP)型」または「逆シア(RS)型」と呼ばれる2種類の特殊な構造を持つ小規模な磁場が存在したときにフレアが発生することを見出しました(図3)。さらに、発生するフレアの規模は大規模な磁場の捻じれが強いほど大きくなることも明らかにしました。
草野教授らはシミュレーションによるこの予測を検証する為、2006年12月13日及び2011年2月13日に発生した大規模フレアを、太陽観測衛星「ひので」が観測したデータに基づいて詳細に解析しました。その結果、シミュレーションが予測した2種類の磁場構造がそれぞれ太陽表面に現れた数時間後に、これら2つのフレアがその領域で発生したことを確認しました(図4及び図5)。また、過去に観測された複数のフレアもシミュレーションの予測に一致する磁場構造を伴っていたことを突き止めました。

【成果の意義】太陽フレアと同様の現象は太陽のみならず数多くの恒星や様々な天体で発生しています。また、太陽フレアのようにプラズマ中の磁気エネルギーが爆発的に解放される現象は、地球や惑星の磁気圏、核融合を目指したプラズマ閉じ込め実験でも現れます。それ故、太陽フレアの発生機構の解明は天文学、宇宙空間物理学、プラズマ物理学に共通した重要課題です。本研究はフレアの発生条件となる磁場構造を世界で初めて特定したものであり、フレア発生機構の解明に重要な貢献をする成果です。
 さらに、本研究の結果は太陽磁場観測を通してフレア発生を数時間前に予測することが可能であることを意味することから、正確な宇宙天気予報の実現に大きな貢献をするものとして注目されています。研究チームは本研究の成果を応用し、精密な太陽磁場観測データよりフレア発生を事前に予測するスキームの研究開発に着手しています。

 

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図1:計算機シミュレーションで使われた太陽コロナ磁場のモデル。θ0 の捻じれ角(シア角)を持つ大規模磁場中に、回転角φe の小規模磁場変動を与える。底面は太陽表面に対応し、白と灰色の領域は磁場の向きが外向きと内向きの領域に対応する。

 

 

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図2:計算機シミュレーションのまとめ。大規模磁場のシア角(θ0 )と小規模磁場の回転角(φe )からなるパラメタ領域においてフレアが発生するか否かを表す。ピンクのダイアモンド及び青のダイアモンドは、それぞれ対応するパラメタ(反極性型及び逆シア型磁場)でフレアが発生したことを示す。一方、四角(□)のパラメタではフレアは発生しなかった。等高線(緑から赤)はフレアで解放されたエネルギーを示し、シア角が大きな場合にのみ大規模フレアが発生することが分かる。

 

 

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図3:計算機シミュレーション(反極性型)で再現された太陽フレアにおける磁力線(緑線)の時間変化。赤色の面は強い電流層を示す。

動画1: 反極性型磁場を原因として発生する太陽フレアのシミュレーション(QuickTime movie 17MB)
動画2: 逆シア型磁場を原因として発生する太陽フレアのシミュレーション(QuickTime movie 34MB)
【注意】 動画の再生にはQuickTimeが必要です。

 

 

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図4:2006年12月13日に発生したXクラスフレアの「ひので」衛星による観測結果。グレースケールは太陽表面磁場を、赤線はカルシウム線の発光を示す。黄色の円形で示した部分に反極性(OP)型磁場構造が現れた後に、その領域を中心としてフレアによる発光が広がる様子が示されている。緑線は磁気中性線。

 

 

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図5:2011年2月13日に発生したMクラスフレアの「ひので」衛星による観測結果。グレースケールは太陽表面磁場を、赤線は太陽表面におけるカルシウム線の発光を示す。黄色の円形で示した部分に逆シア(RS)型磁場構造が現れた後に、その領域を中心としてフレアによる発光が広がる様子が示されている。緑線は磁気中性線。

 

【論文名】
題目:Magnetic Field Structures Triggering Solar Flares and Coronal Mass Ejections
著者:草野完也、伴場由美、山本哲也(名古屋大学)、飯田佑輔、鳥海森(東京大学)、浅井歩(京都大学)
掲載誌:The Astrophysical Journal, 760, 31 (2012年11月20日号)

 【研究チーム】
草野完也 名古屋大学太陽地球環境研究所 教授・副所長
               独立行政法人海洋研究開発機構システム地球ラボ ユニットリーダー(併任)

伴場由美 名古屋大学大学院理学研究科素粒子宇宙物理学専攻 博士課程(前期課程)

山本哲也 名古屋大学太陽地球環境研究所 研究員

飯田佑輔 東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻 日本学術振興会特別研究員

鳥海 森 東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻 博士後期課程

浅井 歩 京都大学宇宙総合学研究ユニット 特定助教

 【謝辞】
本研究は科学研究費補助金基盤研究(B)(一般)「太陽フレア・トリガ機構の解明とその発生予測(研究代表者:草野完也、研究課題番号:23340045)」の支援を得て行われました。

【問い合わせ先】
名古屋大学太陽地球環境研究所
教授 草野完也
TEL:052-747-6337
FAX:052-747-6334
E-mail:kusano@nagoya-u.jp

 【用語説明】

太陽フレア: 太陽表面における巨大な爆発現象。最大水爆100万個分のエネルギーを一度に放出し、強力なX線や粒子線、巨大な衝撃波などを生成する。
太陽コロナ: 100万度の高温プラズマでできた太陽の大気。皆既日食の際には肉眼でも確認できる。
プラズマ: イオンと電子から成る高温の気体。気体を数千度から1万度以上に加熱するとプラズマとなる。
磁気嵐: 地磁気が全世界的に激しく変動する現象。
地球シミュレータ: 独立行政法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)横浜研究所に設置されている我が国を代表するスーパーコンピュータ。
ひので衛星: 2006年に打ち上げられた日本の太陽観測衛星。世界で最も精密な太陽磁場観測が可能。

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