名古屋大学太陽地球環境研究所

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AD774-775年における宇宙線強度の急激な増加を発見

放射性炭素14Cは、宇宙線と大気原子核との反応によって生成されます。その後二酸化炭素となり、光合成により樹木に取り込まれて年輪内に固定されるため、樹木年輪中14C濃度はその年の宇宙線強度を記録しています。通常は地球への到来宇宙線量が太陽活動による影響を受けるため、年輪中14C濃度の測定は過去の太陽活動を調べるために有効です。一方、宇宙線そのものが大量に放出される超新星爆発や太陽フレアなどの宇宙高エネルギー現象が起きていた場合、その痕跡を記録している可能性があります。しかし今までに14C濃度測定によって見つかった過去の宇宙高エネルギー現象は、10年から数10年と長い時間スケールのものだけでした。また、これまでに1年分解能で測定された過去500年間において短期間での14C濃度増加は見られませんでした(人為起源を除く)。さらに、AD1006,1054年(=記録に残る超新星で一番明るかったといわれているSN 1006、かに星雲となった超新星SN 1054の出現年)や、AD1859年(=記録が残っている中では最大の太陽フレアと言われているカリントンフレアの発生年)における14C濃度にはその影響はみられません。従って、14C濃度法でこのような短期間に起きた過去の高エネルギー現象を検出するためには、地球へ入射した宇宙線エネルギーの相当大きなイベントが起きていなくてはなりません。

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図1 宇宙線による14Cの生成と炭素循環

今回宇宙線研究室をはじめとする研究グループは、2個体の屋久杉年輪中14C濃度を1-2年分解能で測定し、奈良時代であるAD774-775年にかけて1年で12‰(誤差に対して7.2σの有意性)の14C濃度増加と、それに続く減衰を発見しました。10年平均したデータは、IntCal(過去12,000年の10年ごとの14C濃度=世界共通の年代測定の較正曲線)とよく一致します。また南極のアイスコアから得られた、同じ宇宙線生成核種である10Beの30年値でも同じような増加が見られることから、この現象が、地球外から来た宇宙線によって全地球で起こっていたことがわかります。今回の14C濃度の増加とその後の減衰のしかたを調べた結果、これが短時間の宇宙線の増加とその後の大気中の炭素循環から予測される変化の様子とよく一致しました。すなわち774年から775年にかけての1年の間に何らかの理由で宇宙線が増加して大気中に14Cを生成し、その後炭素循環によって減衰していったと考えられます。この変化は、1960年頃の大気圏内核爆発実験による大気中14C濃度の変化とよく似ています。

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(図a) AD750-820年までの14C濃度。
TreeA,TreeBはそれぞれ別個体の屋久杉のデータ。

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(図b) 14C濃度の10年平均とIntCalとの比較

今回検出した12‰の14C濃度増加は、11年太陽活動周期による通常の宇宙線変動の約20倍に相当します。その原因として、前述した超新星爆発と太陽フレアが考えられます。超新星爆発の場合、爆発によって発生したガンマ線が地球に到来して14Cを生成すると考えられています。今回の14C濃度増加を説明するには、約10^25ergのエネルギーのガンマ線が地球全体に入射する必要があり、これは通常の超新星爆発が200pcの距離で起きた場合のエネルギーと矛盾しません。しかし、距離200pc程度という太陽近傍においてAD775年に該当する超新星残骸は見つかっておらず、さらに中国ヨーロッパをはじめとする古文書にも775年の超新星記録は残っていません。比較的新しく、距離の近い超新星残骸は今でも明るく輝いていることが想定されるため、超新星爆発が原因ではないと思われます。

次に太陽フレアが原因の場合、フレアによって発生した陽子が14Cを生成することが想定され、今回の14C濃度増加を説明するために太陽から放出された陽子の全エネルギーを見積もると約10^35ergとなります(等方放射を仮定)。これは今までに観測された最大級の太陽フレアの約1000倍にも相当します。このようなエネルギーの高い太陽フレア(スーパーフレア)は、歴史記録がないことや理論的予想から過去に太陽では起きなかったと信じられてきました。スーパーフレアが仮に太陽で起きた場合、地上の生物に深刻な影響を与えると考えられていましたが、AD775年には歴史記録がないため、スーパーフレアを原因とするにも問題があります。スーパーフレアによる地球環境への影響がどの程度のものになるのか、詳細な研究の必要があるかもしれません。

現在の知識では原因の特定に至っていませんが、AD774-775年にかけて地球に非常に多くの宇宙線が飛来した事実は明らかです。今後、歴史記録の詳細な調査、アイスコア中10Be等宇宙線生成核種の分析、さらに超新星残骸のさらなる観測により原因究明が期待されます。


※この研究成果は、英国科学雑誌Nature (2012年6月3日電子版)に掲載されています。
A signature of cosmic-ray increase in AD 774-775 from tree rings in Japan
F. Miyake, K. Nagaya, K. Masuda and T. Nakamura, Nature 3-June 2012.

記者発表資料
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