名古屋大学太陽地球環境研究所

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浮遊惑星という新たな系外惑星が多く存在していることを発見

浮遊惑星という新たな系外惑星が多く存在していることを発見

-主星を持たない惑星、惑星形成解明へのヒント-

【ポイント】
・ 主星の周りを回っていない「浮遊惑星」と言う新しい種族を発見した。
・ これらの浮遊惑星は、恒星と同じぐらい多く存在している事を発見した。
・ 惑星系から弾き跳ばされてできたと考えられ、惑星形成過程の解明に非常に重要である。

【背景】
 1995年に初めて太陽系以外の惑星(系外惑星)が発見されてから、これまでに500個以上の系外惑星が発見されており、今や天文学で最も活発な分野の一つとなりました。これら発見された惑星のほとんどは、我々の太陽系の惑星の様に恒星(主星)の周りを回っています。これはこれらの惑星が、その公転の反動で中心にある主星が"ふらつく"ところをとらえる「視線速度法」や、惑星が主星の前を横切る時の減光をとらえる「トランジット法」など、主星に現れる惑星の小さな影響を間接的にしか観測できないからです。しかし、恒星の周りを廻らず宇宙空間を浮遊する「浮遊惑星」は、理論的には予想されていましたが、上記の様な主星を用いた間接的検出ができません。最近になり、星が形成されている領域で非常に若くまだ高温なためにわずかな光を放っている浮遊惑星候補が直接検出され始めていますが、質量の不定性は非常に大きく、その存在量はまだ分かっていませんでした。

【研究の内容】
 一方、日本とニュージーランドの共同研究グループである我々MOAグループは、重力マイクロレンズ現象を利用した方法で系外惑星の探索に取り組んできました。この現象は、アインシュタインの一般相対性理論が予言する「光が重力によって曲がる」と言う性質のために起こります。ある星(背景光源)の前を偶然別の星(レンズ天体)が横切るとレンズ天体の重力によって背景光源からの光はあたかもレンズを通ったかのように曲げられて集光し、突然明るくなった様に見えます(増光現象)。普通の星がレンズとなると20日程度の間に、単調に明るくなって、また同じ時間をかけて元の明るさに戻っていきます。しかし、もしこの星(主星)の周りに惑星があると、その惑星の重力の影響で単調でない増光が余分に加わります。この余分な増光を見つける事によって、そこに惑星がある事が分かります。この様な原理を利用して、主星を伴う系外惑星に関しては、2003年には初めて重力マイクロレンズで系外惑星を発見、2005年には地球の5.5倍と当時最も小さい系外惑星を発見し、現在まで12個の系外惑星が見つかっており、惑星分布の重要な情報が得られています。
 増光期間はレンズ天体の質量の平方根に比例するため、もし主星が存在せずに惑星のみがレンズ天体となると、主星による長い増光はなく、増光期間が1?2日程度の非常に短い増光現象となります。したがって、この様に増光期間の短い増光現象を見つける事で、そこに惑星質量の天体がある事が分かります。この方法は、従来の方法の様に主星や惑星からの光を必要とせず、惑星の重力を検出するので、浮遊惑星を発見可能にする非常にユニークな方法です。しかし、重力マイクロレンズ現象は100万個の星を見て1個起こる程度と非常に稀な現象で、数千万個の星を毎晩モニターしなければなりません。しかも、1?2日の増光現象を観測するためには一日10回以上の高い頻度で観測する必要があり、これまでは技術的に不可能でした。
 我々MOAグループは、1995年からニュージーランドのMt.John天文台の61cm望遠鏡で重力マイクロレンズ現象による系外惑星探査を行ってきました。2005年には同天文台にMOA-II 1.8m広視野望遠鏡を建設し、翌年4月から銀河系中心バルジ内の星約5千万個を毎晩定常観測しており、毎年約500個の重力マイクロレンズ現象による増光現象を検出しています。特に非常に広い視野を利用して、これらの星を毎晩10回から50回と非常に高い頻度で観測する事によって世界で初めて1日程度の短い増光現象を検出する事ができる様になりました。
 今回の発見は、2006年から2007年の観測データを解析した結果、増光期間が2日以下の増光現象を10例検出しました。その増光期間の短さから、これらの増光を引き起こしたレンズ天体は、木星質量程度の浮遊惑星である事が分かりました。これらの惑星の内いくつかは、軌道半径が非常に大きくて主星が検出できないだけである可能性は排除できません。しかし、他の観測から、この様な軌道半径が非常に大きな惑星はあまり存在しない事が分かっているので、10個の内殆どは主星に付随していないと考えられます。しかも、この検出数の多さから、この浮遊惑星の数は、主星の周りの回る惑星と同程度、もしくは普通の恒星の約2倍(少なくとも同程度)と非常に多い事が分かりました。つまり、我々の銀河系内に数千億個も存在すると予想されます。
 これらの浮遊惑星がどの様に形成されたかは、二通りの説が考えられます。一つ目は、星や星になり損ねた褐色矮星と同じ様に、宇宙空間でガスやチリが集まってできると言う説です。しかし、この方法で木星質量程度の小さな天体まで形成できるかどうかは、懐疑的です。また、もし現在の星や褐色矮星と同じように浮遊惑星ができたとして、天体の質量の分布(質量関数)が惑星質量まで同じ様に続いていると仮定しても、今回発見された10例の増光現象の内1、2例しか説明する事ができません。二つ目は、普通の惑星と同じ様に、星の周りの原始惑星系円盤で形成されて、その後、他の惑星と重力的に相互作用をして軌道が不安定になり、外に弾き跳ばされたと言う説です。この様な惑星同士の相互作用を示す事例はいくつも観測されており、今回発見された浮遊惑星は、この説の方が上手く説明できるかもしれません。もしくは、これら二つの説がどちらも作用している可能性も有ります。
 我々の観測は、まだ木星質量より小さな天体を検出する事はできませんが、地球質量の惑星は木星質量の惑星より弾き跳ばされ易いので、今回発見された天体よりもはるかに多く浮遊惑星として存在しているかもしれません。地球質量の浮遊惑星にも生物がいるかもしれないと予測する科学者もいます。もし、地球質量の浮遊惑星が水素の厚い大気を持っていれば、惑星中心部にある放射性物質からの熱や、惑星形成時の熱の残りが、温室効果で保たれて氷の殻の下に液体の水が存在するかもしれません。この様な地球質量の浮遊惑星は、NASAが2020年頃打ち上げを計画しているWFIRST宇宙望遠鏡で実際に検出が可能になります。

【成果の意義】
  今回発見した浮遊惑星は、主星の軌道上に生き残った惑星だけではなく、これまでにどれ位の惑星が実際に形成され、その後どうなったかに関しての情報を得る事ができると言う点で、惑星形成過程の解明に非常に重要なものです。これにより、宇宙で惑星がどの様に生まれ、我々の太陽系の様な惑星系がどれ位存在するか等が解明される日が一層早まると期待されます。


原論文
"Unbound or Distant Planetary Mass Population Detected by Gravitational Microlensing"
T. Sumi et al, Nature 19-May, 2011


本研究成果を発表した国際共同観測研究チームについて
 参加国:日本、ニュージーランド、米国、ポーランド(4カ国)、
の39名が参加する、以下の2つの研究グループによる共同研究論文
・ MOA ( Microlensing Observation in Astrophysics :モア) グループ
参加国:3カ国 日本(大阪大学、名古屋大学、甲南大学 他全5機関)、ニュージーランド(オークランド大学、カンタベリー大学、マッセイ大学、ビクトリア大学)、米国(ノートルダム大学)
・ OGLE (Optical Gravitational Lensing Experiment:オーグル) グループ
参加国:1カ国 ポーランド(ワルシャワ大学)


20110517-img1.jpg発見された木星質量の浮遊惑星のイメージ。主星からの光がない為、非常に暗い。この様な暗い惑星が恒星と同じくらい、宇宙空間を彷徨っている。背後は銀河系中心部。Artwork by Robert Hurt。 


20110517-img2.jpg発見された木星質量の浮遊惑星のイメージ。惑星の重力によって背後の銀河系中心内の星の光が曲げられアインシュタイアークと呼ばれるイメージを作る(黄色の円弧)。アークの大きさは非常に小さく分解して形を見る事はできないが、増光現象として観測される。Artwork by Jon Lomberg。

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