名古屋大学太陽地球環境研究所

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重力マイクロレンズ効果を利用したエリス・ワームホールの検証法を導出

 この度、名古屋大学太陽地球環境研究所の阿部文雄准教授は、時空間を連結するワームホールの一種である、エリス・ワームホールの重力マイクロレンズ効果(遠方の星の手前をワームホールが通過する際の見かけ上の増光現象)を理論的に研究し、通常の星やブラックホールと異なる性質を持つことを導出することに成功しました。この研究によりこれまで有効な探索法が無く、理論的な研究に留まっていたワームホールが実際に存在するかどうか観測的に検証することが可能となりました。今回研究の対象となったエリス・ワームホールは、通過可能なワームホールの一種とされております。通過可能なワームホールは、これを人間が通過することにより、タイムトラベル(過去や未来への移動)やスペースワープ(光速度を越える速度での宇宙空間の移動)が可能であるとの説があり、SF小説などにも取り上げられています。今後、重力マイクロレンズ観測のデータを解析することにより、ワームホールが実際に存在するのかどうか検証を行う予定です。もし発見されれば、想像上のものでしかなかったワームホールの存在が確認され、発見できなければ宇宙にはそんなに多くのワームホールは存在しないことになり、その存在量に制限を付けることが可能です。
 この研究成果は、米科学雑誌アストロフィジカルジャーナルに12月10日付けで掲載されました。
 


 

  時空上の離れた点の間を連結するワームホール(図1)は、1935年にアインシュタインとローゼンによって初めて導入されました(アインシュタイン・ローゼン・ブリッジと呼ばれる)。その後、何種類かのワームホールが導入されましたが、それらは不安定ですぐにつぶれると考えられ、当初は数理物理学における意味の無い解と考えられていました。しかし、1988年のモリスおよびソーン(カリフォルニア工科大教授で相対論分野の大御所)による有名な論文により、ワームホールのうちある種のものは人間が通過可能であることが示され、またワームホールのくびれた喉の部分に、負のエネルギーを持った「エキゾチック物質」が大量にあるとすればワームホールがつぶれるのを防ぐことができることが指摘されました。この結果、人間がワームホールをくぐり抜けて反対側に出ることにより、タイムトラベルやスペースワープが可能といった説も提唱され、カール・セーガンの「コンタクト」などのSF小説の題材にも取り上げられました。

 その後、ワームホールを使ったタイムマシンや光速度を越えた宇宙旅行、ワームホールの生成や安定性などさまざまな理論的研究がなされてきました。しかし、ワームホールが宇宙に実際に存在するかどうかについては、これまで検証する有効な手段が無く、実験・観測による研究は行われておりません。ワームホールがこの世に存在しなければ、それを使ったタイムトラベルやスペースワープは絵空事となってしまいます。過去における人類の夢であった錬金術や永久機関と同様に、ワームホールによるタイムトラベルやスペースワープははかない夢として消え去るのか、それとも実際に実現可能なのか?それを知るためには、実験・観測による検証が必要です。1995年の論文でクレーマーらは、ワームホールのある種のものは負の質量の重力レンズ効果を引き起こすと考え、重力マイクロレンズ効果(遠方の星の手前をワームホールが通過することによる見かけ上の増光)を使った検証法を提案しました。この論文に関連して、「負の質量」の重力マイクロレンズ効果に関する研究がいくつかなされました。しかし、その根拠はあいまいで「負の質量」を発見すればワームホールの発見と言えるのか、「負の質量」が無いことをもってワームホールの存在を否定できるのか明らかではありませんでした。その後、ワームホールの時空構造から重力レンズ効果を導出する研究が進展し、2008年のデイおよびセンの論文でエリス・ワームホールによる光の偏向角が求められました。

 名古屋大学太陽地球環境研究所の阿部准教授は、同研究所伊藤教授、甲南大学村木教授らとともに、ニュージーランド・マウントジョン天文台に設置した1.8m専用望遠鏡と大型CCDカメラを使った、マゼラン雲および銀河中心方向の重力マイクロレンズ観測を行っており、太陽系外惑星発見などの成果をあげてきました。一方、こうしたマイクロレンズ観測のデータからワームホールの検証が可能と考え、デイおよびセンによって導かれた光の偏向角を使って、ワームホールのマイクロレンズ効果による光度曲線(見かけの明るさの時間変化)の導出を行いました(図2)。その結果、ワームホールの光度曲線は通常の星やブラックホールと異なり、極大の前後で一時的に減光することを突き止めました。これにより、通常の星やブラックホールと分離してワームホールを検出することが可能であることがわかりました。ワームホールが発見された場合、タイムトラベルやスペースワープが可能とする説にひとつの根拠を与えることになります。しかし、実際に実現するにはまだ多くの困難があります。検出されなかった場合、ワームホールの存在を否定することは残念ながらできません。しかし、観測されなかったということは、多数のワームホールが存在するわけではないことになり、その存在量への制限を課することが可能です。この研究によって、これまで理論的な研究の対象でしかなかったワームホールの、観測的検証に道を開いたと考えられます。今後、ニュージーランドでの観測データの解析を行い、ワームホールの検証を行う予定です。
 

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図1 ワームホールのイメージ図。図中上下の空間は、宇宙の中の遠く隔たった空間、現在と過去、現在と未来、別な宇宙などの可能性があります。細くくびれた部分はスロート(喉)と呼ばれ、ここを通過することができればタイムトラベルやスペースワープが実現する可能性も指摘されています。
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図2 エリス・ワームホールのマイクロレンズ効果による光度曲線(太線)。縦軸は増光率、横軸は時間。細線は通常の星やブラックホールによるマイクロレンズ効果。左上のパネルは、ワームホールが遠方の星のごく近くを通過した場合、右上、左下、右下と順にやや遠くを通過した場合を示します。(アストロフィジカルジャーナル誌より)

 

ワームホールについて書かれた一般向けの解説書
福江純監修、「正反対の顔を持つ『時空の二つの穴』ブラックホール、ホワイトホール」Newton別冊
佐藤勝彦監修、「タイムマシンがみるみるわかる本」PHP研究所
佐藤勝彦、「インフレーション宇宙論」ブルーバックス
福江純、「ブラックホール宇宙」ソフトバンク クリエイティブ

原論文の入手について:
アストロフィジカルジャーナル誌には、すでに論文が掲載されています。
F. Abe, 2010 ApJ 725 787
http://iopscience.iop.org/0004-637X/725/1/787
また、arXivからもダウンロードできます。
http://arxiv.org/pdf/1009.6084v2
 

<研究に関する問い合わせ>
阿部文雄(アベ フミオ)
名古屋大学太陽地球環境研究所 准教授
TEL:052-747-6347、FAX:052-789-5891
email:abe@stelab.nagoya-u.ac.jp

<報道に関する問い合わせ先>
名古屋大学広報室、TEL:052-789-2016、FAX:052-788-6272
email:kouho@post.jimu.nagoya-u.ac.jp

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