名古屋大学太陽地球環境研究所

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脈動オーロラの駆動源を解明

名古屋大学太陽地球環境研究所、総合解析部門の西村幸敏日本学術振興会特別研究員は、米国カリフォルニア大学(UCLA)との共同で脈動オーロラ駆動源の研究を地上-衛星同時観測を用いて行いました。オーロラが脈打つ原因はこれまで幾つかの説が提唱され議論が続いてきましたが、この研究ではコーラスと呼ばれる宇宙空間の波がオーロラと同時に変調していることが示され、この波による高エネルギー電子の散乱過程がオーロラの脈動を引き起こしている事が突き止められました。この研究成果は、2010年10月1日発行の米国科学雑誌Scienceに掲載されました。また、10月18日付の朝日新聞でも紹介されています。



オーロラは緯度の高い地域の空に見られる自然発光現象で、緑や赤色の光が時に激しく動く現象であることが古くから知られています。オーロラは、宇宙から降り注いでくる高エネルギー粒子(~10 keV程度)が大気と衝突することで発生します。そのため、オーロラはただ美しいだけでなく、広大な宇宙で何が起きているかを地上に居ながらにして観測できる科学的意義の大きな現象で、地球周辺の宇宙環境を知るための手掛かりになります。

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図1. カナダ上空に広がるオーロラ(右)とパッチ上に分布する高エネルギープラズマ(青色)の中で観測する衛星(桃色)の模式図。これらの領域は地球磁場の磁力線で結合されている。高エネルギープラズマはプラズマ中の波(赤色)と相互作用し、地球の超高層大気の粒子と衝突してオーロラを引き起こす。本研究では衛星と地上の同時観測から、パッチ上のプラズマと波の分布とオーロラの形状に密接な関連があることが分かった。

オーロラには様々な種類がありますが、この研究で着目している脈動オーロラは数秒から数分程度の周期でオーロラが脈打つように明滅する現象で、真夜中過ぎの時間帯に頻繁に見られる現象です。この脈動オーロラの周期性は、周期的に宇宙から降り注いでくる高エネルギー粒子によりもたらされています。地球周辺の宇宙空間にはプラズマシートと呼ばれる高エネルギー粒子が多量に存在する領域があり、地球は大きな磁石であるため、緯度の高い地域の大気はこのプラズマシートと結ばれています。ここから降り注ぐ高エネルギー粒子がオーロラを引き起こします。 脈動オーロラ自体はよく知られた現象ですが、なぜ周期的に粒子が降り注いでくるのか、その周期を何が決めているのかという点が長年未解明で、宇宙空間物理学の重要な問題として多くのオーロラ研究者がその謎に取り組んできました。ここの研究チームでは米国カリフォルニア大学(UCLA)との共同研究で、NASAのTHEMISプロジェクトにより地上と宇宙で同時観測を行い、脈動オーロラが発生している時に宇宙空間で何が起きているかを調べました。このTHEMISプロジェクトはUCLAのAngelopoulos教授が主導しており、人工衛星-地上カメラで同時にオーロラや宇宙環境計測を行う2007年に始まったばかりのものです。同じくUCLAにはThorne教授、Lyons教授、Bortnik研究員という宇宙空間物理学の著名な専門家がおり、筆者は彼らを訪問して共同研究を行いました。彼らは特に波動現象に詳しく、我々は人工衛星で観測される宇宙空間の波が脈動オーロラに関わっているのではないかと考え、研究を進めていました。

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図2. (左) THEMIS地上カメラで観測された脈動オーロラ画像データ。(右) コーラス波動との二次元相関。左図と比較すると、相関係数の高い領域はある一つの脈動オーロラパッチだけに存在している。   【動画1】   【動画2】

宇宙空間には様々な種類の波がありますが、その中でもコーラスと呼ばれるものは周期的にその強度が変調することが知られていました。コーラスという名前は、観測された信号を音に変換すると鳥が鳴いているように聞こえることに由来しており、その鳴き声が周期的に聞こえるのが特徴です。このコーラスの強度変調と脈動オーロラの間に何か関係があるだろうという仮説を立て、THEMISデータを用いた同時観測例を探すところからこの研究は始まりました。過去にも同時観測の研究は行われてきましたが、人工衛星を貫く磁力線が大気のどの部分に接続しているかを正確に知らなければいけないため、こういった研究は困難を極めていました。地球磁場は固有磁場に加え、太陽風の影響によりその構造が常に変化しています。過去にはモデルを用いた計算がおこなわれましたが、そのモデルでは脈動オーロラの微細な構造(100 km程度)を捉えるほどの精度がないため、広い宇宙空間と地球大気の接続関係を精度良く知ることが、この研究の課題でした。

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図3. THEMIS衛星で観測されたコーラス波動強度(赤)と脈動オーロラ発光強度(青)の比較。同じタイミングでコーラスと脈動オーロラが発生している様子が分かる。

我々の研究ではいくつかある同時観測例を丹念に調べ、THEMIS衛星が地上カメラの経度近く且つプラズマシート中心部に位置しており、地上から強い脈動オーロラが観測されている例を探し出しました。その時の衛星観測データを見てみると、コーラス波動が明瞭に強度変調を示していました。この波動データと地上で観測される脈動オーロラの二次元相互相関解析をすると、オーロラの中である限られた領域が、コーラス波動と同じタイミングで明滅していました(相関係数0.88)。逆にコーラス以外の種類の波動は無視できるほど弱いかオーロラとは全く異なる周期で変動しており、これらの観測事実はコーラスがプラズマシート粒子を地上へと降下させ、脈動オーロラを引き起こしている事を明瞭に示しています。オーロラの周期性を作りだす原因はコーラスの強度変調にありました。50,000 kmも離れている地球大気と宇宙空間の現象が一対一に対応していることが手に取るように見えるのは、個人的には大きな驚きであり、この研究の最も面白い瞬間でした。 過去の研究とは異なり、我々の研究では磁場モデルに依存せずにオーロラと宇宙空間の高い相関を見出しました。このことは、逆に人工衛星を貫く地球磁力線の根元を、オーロラを使って可視化したと言い換える事が出来ます。実際、従来使われている磁場モデルとの差は100-200 km程度と見積もられ、真の磁場形状を把握しないと高い相関は得られないことになります。このようにオーロラ現象を用いれば、限られた範囲ですが本研究の手法は地球磁場のモデル研究にも応用でき、太陽-電離圏-磁気圏相互作用研究を推し進める上で有用になると期待できます。

原論文
Nishimura, Y., J. Bortnik, W. Li, R. M. Thorne, L. R. Lyons, V. Angelopoulos, S. B. Mende, J. Bonnell, O. Le Contel, C. Cully, R. Ergun, and U. Auster, Identifying the driver of pulsating aurora, Science, 330, 6000, 81-84.

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