名古屋大学太陽地球環境研究所

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最も小さい惑星系を発見

 この度、名古屋大学太陽地球環境研究所の村木名誉教授、伊藤教授、阿部准教授を中心とするMOAグループは、OGLEグループとの共同観測で、重力マイクロレンズ現象による星の増光現象を観測した結果、これまでで最も小さい惑星系を発見しました。この惑星系の主星は、星になり損ねた褐色矮星もしくは、ぎりぎり光る事が出来る程度の小さく暗い星で、この様な太陽より遥かに小さな天体で惑星が発見されたのは世界で初めてです。この研究成果は、平成20年9月1日発行の米国科学雑誌Astrophysical Journalに掲載されます。それに先立ち、平成20年6月3日(米中部時間2日)に米国天文学会で記者発表されます。同研究チームは、2年前に「地球の5倍程度の重さを持つ太陽系外惑星」を、今年2月にも「我々の太陽系に良く似た構成の惑星系」を発見していますが、これに続く大きな発見となります。
 
 
 1992年に初めて太陽系以外の惑星(系外惑星)が発見されてから、これまでに300個近い系外惑星が発見されており、今や天文学で最も活発な分野の一つとなりました。これらのほとんどは、惑星が恒星(主星)の周りを回る反動でその主星が“ふらつく”ところをとらえる「視線速度法」により見つかっています。この方法は、主星を分光観測することによって主星の動き(速さ)を観測します。そのため近くの非常に明るい星でしか観測は出来ず、これまで見つかった惑星系は、比較的重く明るい星に限られていました。よって、より軽く暗いM型星と呼ばれる星での発見は少なく、さらに小さく“星になり損ねた”褐色矮星に惑星が存在するのかどうか良く分かりませんでした。

 一方、我々MOAグループを含む国際共同観測ネットワークは、重力マイクロレンズと言う方法で系外惑星の探索に取り組んできました。この現象は、アインシュタインの一般相対性理論が予言する「光が重力によって曲がる」と言う性質のために起こります。ある星の前を偶然別の星が横切るとその星の重力によって背後の星からの光は曲げられて、レンズの様な働きをして集光し、突然明るくなった様に見えます(増光現象)。普通の星がレンズとなると20日程度の間に、単調に明るくなって、また同じ早さで元の明るさに戻っていきます。しかし、もしこの星の周りに惑星があると、その惑星の重力の影響で単調でない増光が余分に加わります。この余分な増光を見つける事によって、そこに惑星がある事が分かります。この方法では、従来の方法では発見できない様な地球程度の重さの軌道半径の大きな系外惑星まで発見する事が出来ます。さらに観測するのが背景の星からの光で、レンズ星の明るさに関係がないため、小さくて暗いM型星や光っていない褐色矮星に付随する惑星にも感度があります。

 重力マイクロレンズは非常に稀な現象で、100万個の星を見て1個起こる程度です。さらに、この中で系外惑星が発見される確率はそれらの1%程度と非常に小さいので、数千万個の星を毎晩モニターしなければなりません。増光現象はいつどの場所で起こるか予測できないので、広い範囲をモニターして増光を見つけて警報を発信するグループ(OGLEや我々MOAグループ)と、警報を受けて世界各地で詳細な追観測をするグループ(μFAN、PLANETグループ等)で役割を分担しています。このような国際共同観測ネットワークにより、2003年には初めて重力マイクロレンズで系外惑星を発見、2005年には地球の5.5倍と当時最も小さい系外惑星を発見、2006年には太陽系に酷似した惑星系を発見し、現在まで6例の系外惑星が見つかっています。我々MOAグループは、1995年からニュージーランドのMt.John天文台の61cm望遠鏡で重力マイクロレンズによる系外惑星探査を行ってきました。2005年には同天文台に1.8m広視野望遠鏡を建設し、翌年4月から定常観測を開始し(MOA-II)、OGLEグループと共に世界中に増光警報を発信しています。

 今回の発見は、我々MOAグループの1.8m広視野望遠鏡の性能が遺憾なく発揮された成果です。2007年5月24日、我々MOAグループは、銀河中心方向の1つの星が突然元の明るさの220倍も明るくなっている事を発見し、重力マイクロレンズ事象MOA-2007-BLG-192と名付けました。この星の明るさの変化を詳しく調べてみると、惑星と思われる微かな信号を捉えました。すぐに、OGLEグループに問い合わせたところ、彼らはこの事象に気づいてませんでしたが、運良く彼らの観測データに同じ事象が映っている事を確認出来ました。MOAとOGLE、さらにチリのVLT 8m望遠鏡による観測データを合わせて解析した結果、このレンズ事象をひき起こしているのは、我々から約3300光年の距離にある、太陽質量の6%程度(もしくは4-9%の間)と非常に軽い星の周りを地球の3倍程度(もしくは2-8倍の間)の重さの惑星が回っている系である事がわかりました。軌道半径は、地球の軌道半径のおよそ0.6倍で金星と同じ位でした。これは、これまでにマイクロレンズで発見された系外惑星で初めて追観測なしで発見出来た事例です。惑星による明るさの変化は、数時間から数日程度と非常に短いので、従来は我々サーベイ観測グループが広い領域の多くの星を1日1回程度観測してマイクロレンズ事象を検出し、それを追観測グループが1日何十回という連続観測をして短い惑星シグナルを検出していました。今回は、背景天体が暗く発見が遅れたため、追観測が出来ませんでした。しかし、MOA-II 1.8m望遠鏡の2.2平方度と言う広視野(OGLEの8倍)を利用した1日10回と言う高頻度サーベイ観測のおかげで、この惑星シグナルを検出する事に成功しました。

 今回発見した惑星系の主星は、これまでに見つかった惑星系の中で最も軽く小さい星です。太陽質量の8%以下の重さの天体は褐色矮星と言われ、軽すぎて内部で核反応が十分に起きず自分で光る事の出来ない“星になり損ねた”天体です。今回の観測では、主星はこの褐色矮星か、もしくは、ぎりぎり星になれた程度の小さくて暗い星(軽いM型星)であると分かりました。褐色矮星か最も軽いM型星かどうかは数年後にハップル宇宙望遠鏡で追観測する事によって判別される予定です。

 この惑星の質量は、地球の3倍程度とこれまで見つかった系外惑星で最小の惑星であるかもしれません。不定性が地球の2-8倍と大きいですが、これまで見つかった最小の系外惑星の内の一つです。従ってこの惑星系は、これまでで最小の惑星系と言えるでしょう。

 一般的には、主星の周りに塵とガスの円盤が出来て、それらが集まって重さが主星の0.03倍程度以下の惑星が出来ると考えられています。これまでに、惑星程度の質量の伴星を伴った褐色矮星が2つ見つかっていますが、これらの伴星の質量は主星の0.2倍(今回発見した系では2×10-4倍)と非常に大きく、上記の一般的なプロセスでは形成されず、いわゆる惑星系とは言えません。この様に形成過程で惑星系を定義すると、今回の主星はこれまでで最小と言えます。褐色矮星に惑星の元となる円盤があることは最近観測されつつありますが、実際に惑星の観測は初めてです。

 現在一般的に受け入れられている惑星形成理論では、惑星は温度が十分低い外側で形成され易いと予想されています。そこでは岩石のコアに水蒸気が氷となって凝縮して惑星が成長し易く、その境界を“氷境界“と言います。これまでマイクロレンズ法での観測でM型星の様な小さな星の周りの氷境界外側で、小さな惑星が出来易いという理論的予想を実証してきまました。

 今回の主星は非常に小さいので、惑星の温度は低く太陽系で言うと天王星に似て冷たい惑星です。この発見により、さらに小さな星や褐色矮星の周りでも惑星形成が可能である事が世界で初めて実証されました。この様な冷たいと思われる惑星でも水素による温室効果で生命が存在出来る程度暖かい可能性もあるといる仮説もあります。

 重力マイクロレンズ法で、地球の様な小さい惑星が発見される日も近いでしょう。 

 

原論文

“A Low?Mass Planet with a Possible Sub-Steller-Mass Host in Microlensing Event MOA-2007-BLG-192”

D.P.Bennett et al, Astrophysical Journal 1-Sep, 2008


本研究成果を発表した国際共同観測研究チームについて

 参加国:日本、ニュージーランド、米国、ポーランド、英国、チリ、フランス、ドイツ(8カ国)の47名、以下の2つの研究グループ他による共同研究論文

・ MOA ( Microlensing Observation in Astrophysics :モア) グループ

 参加国:2カ国 日本(名古屋大学、甲南大学 他全4機関)、ニュージーランド(オークランド大学、カンタベリー大学、マッセイ大学 他全4機関)

・ OGLE (Optical Gravitational Lensing Experiment:オーグル) グループ

 参加国:ポーランド、米国
 

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